Fragment

進撃二次創作腐女子向け駄文ブログ。
取り扱いは
ジャン×アルミン
ライナー×ベルトルト
中心に思うがままに組み合わせていく予定

告白は浅い眠りの後で(後編/エルリ/E)

寝室に着くなりリヴァイは着ていた大きめの白いシャツを脱いだ。

育っていない体がまた性別を忘れさせる。

いや、男なのだ。

産まれた時から生えているものがきちんとあるはずだから。


『しかしリヴァイ、』


『なんだ、』


俺の半分以下の薄さをした体。

少しでも力を入れて捻れば折れてしまいそうだ。


『初めてではないのか?』


『さあな。』


その歳で豊富では色々と困る。

聞いてしまった大人として、教師として、母親に伝えなくてはいけない場合もある。

その年齢で子供を作れるともまだ思えない。

いや、確かなことは言えないな。

だが、尻を使えないことはないかもしれない。

どちらかと言うと、そちらの経験の有無の方が気になるものだ。


ダメな大人として、いけない初体験を頂きたいと思っていたのだが。


『初めてだと言っておけ、』

『ああ。』


『来なさい。』

『、』


ベッドに膝をかけ、振り向いてリヴァイに手を差し伸べた。

下の下着一枚になった姿。

その体を引き寄せる。

抱き寄せ、ベッドに倒した。


子供の匂いがした。

けれどそれが今夜はとてもふしだらなものに感じた。

きっと俺の脳がそうさせているだけだ。

なんでもそんなふうに変換してしまうのだろう。


『怖くないか?』


白い首筋に唇を落とした。

風呂上がりの柔らかな肌だった。

食んでやると瑞々しく弾く。


『だったら今なんて最初からなかった。』


『そうか、では…』


十三歳にすら遠慮はしないことになる。

得体の知れない生き物に、得体の知れない欲情を抱えているのだ。


細い首。

薄い胸。


噛み付いて舐めると肩が震えた。


胸の先は硬く尖っている。

肌が泡立っている。

緊張からなのか、触れたところが性感帯だったからか。


舌先を胸の辺でうろうろとさせ、手を彼の下着に滑り込む。


『、』


ひとつ大きく震えた。


『エルび、』

『どうした、』


胸の先を噛む。


『んっ、』


内股に力が入る。

その隙間を割って作る。

小さなそれに手が触れた。

やんわりと立ち上がっているらしい。


『く、んん、』


変声期も迎えていない上に、上擦った高い声だった。

ひとりでしたことぐらいはあるのだろうが、誰かと経験したから俺に挑んで来たのだろうか。


そもそも、まだ、互いの腹に抱えている思いを明らかにしていない。

俺がリヴァイという子供に恋をしているのか、まだ言いきれない気もする。


ーーーーいや、恋はしているのだろう。


それ以上のものが、父性へ向かうのか、別な愛情に向かうのか、今が分岐点なのだろう。


自分自身に頷く。


体も心も傷つける後に解るものかもしれないが。


子供ながらに種を備えたそこを揉んでやると、肩も顎の先も震わせて反応した。

声を噛み殺している。

そんな高騰技術なんて子供のうちは忘れてていいのだがな。


『リヴァイ、』


もう一度唇にキスを贈る。

露骨過ぎる我慢なんて溶かしてしまえばいい。

所詮は子供なのだ。


どんなにませていようと、

どんなに口が悪かろうと、

誰と経験を済ませていようと、

まだ子供なのだ。


『…俺を許すなら、お前も許すんだ。』


その解けない我慢を、俺に解放するんだ。

俺に抱かれることを、許すのなら。


『リヴァイ…、』


唇を溶かす。

股の間にあるものを揉んでやりながら。

名前を呼び、応えさせる。

応えるまで唇を溶かすだけだ。

伊達にあらゆるものに耐えて生きていない。

応えるまで攻め続けるのみ。


『…、える、…、あ、』


酸素が足りていないのだろう。

まだだ。

まだ終わらない。

俺は犬が人の口を舐めるようにひたすらキスとは言えなくなった行為を続けた。


『ふ、…ら、…えるび、』


唾液がシーツに落ちる。

開きっぱなしになった唇。

リヴァイの細い腕は力なくベッドに投げ出されていた。

ようやく唇を離す。

涙と涎で濡れた顔をしたリヴァイは、酸素を求めてただ胸を上下させていた。


『リヴァイ、やめておくか?』


頬に触れる。

瞳だけが動き俺を見た。

きっと視界は霞んでいるに違いない。


『い…やら、…』


嫌だ。

そう言いたかったのだろうか。

俺の空耳でしかなかったか。


『ここまできて、…ふざけ…な、』


ふざけてなどなかった。

陥落させるためにキスを続けたのだ、俺は。


『えるびん、』


回らない呂律。

らしからぬ姿に、俺の腹の底の何かがまた首をもたげた。

背筋から登って、また肩からリヴァイを覗き込んでいる。


『えるびん…、』


もう一人の、俺だ。

俺の肩からリヴァイを覗くのは、もう一人の俺。

肉欲の目でこの少年を見下ろしているのだ。


『おれ、』


伸びてくる手を取った。

ベッドの上でリヴァイの体を抱きしめていた。


『…えるびん、える、』


泣いているのか。


『、…きだ、』


『、』


『えるびん、』


『…、』


『ぐ、…、』


『、』


『すきだ、』



聞いていたか、もう一人の俺よ。

肉欲の塊よ。

これで合意の行為のようだ。


貰った言葉以上の扱いをするんだ。

この少年の不器用過ぎる感情が形になったのだ。

それをもう一人の俺、否、この俺が、この少年の気持ち以上のもので返してやらねばならない。


『リヴァイ、』


『、』


それがこの少年に恋をした大人の役目だ。


『ありがとう。』


『、』


この少年にはどんな言葉や、どんな愛撫で気持ちが伝わるのかはまだ掴めない。

けれど、やっとこの少年は俺に気持ちを現した。

伝わることは確かめられた。

だから今度は、俺が探り続ける番だろう。


俺のその先にある感情と、

この少年の心に触れられる場所を。


『リヴァイ、無理に耐えようとするな。』


唇を拭ってやる。

それから目元にキスをして、僅かばかり気休めを与えてやった。

リヴァイはその気休めを頷いて受け取った。






結果、指も満足に入らない。

俺を受け入れる体にはなっていなかった。

最後までするのだと、泣いて譲らないリヴァイを宥めるのは苦労した。


その分口でしてやって、少量の種を吐き出す行為を何度か繰り返してやった。


慣れてなんかいなかった。

結局リヴァイの口から経験の有無は聞けなかったが、何も知らない体をしていたように思える。



もう一人の俺は、久しぶりの獲物に目を覚ました。

そして元来の俺が征した夜となった。


そう思うと、リヴァイの中にももう一人のリヴァイがいたのかもしれない。

気持ちを伝える手段を、もう一人の自分に委ねてしまった少年。


紅茶を愛する少年の中にある、乱暴な思いを両手一杯に抱えてしまったもう一人の自分。



目尻を赤くしたまま眠るこの少年が起きた時の顔はどんなものだろうか。

それを考えると、なかなか寝付けなかった。


起きたらアールグレイのミルクティーを入れてやろう。

きっとお前は何故アールグレイなのかと問うだろう。


『ふ、』


眉間に何も無い顔を見ているのはとても気持ちがいい。

見慣れないせいだ。

見慣れればいつか、この少年の体を抱いて深く眠れる夜も来るだろう。


だからその時は、父性ではなかった俺の告白を聞いてもらおう。


『リヴァイ、』


今はまだ、お前を前にして浅い眠りしか得られぬ未熟な俺を許して欲しい。


『ありがとう。』


俺が贈ってやれる言葉は、今はまだ、こんなもののようだ。

許して欲しい。


きっと愛してしまう日まで、許して欲しい。
















終わり。

告白は浅い眠りの後で(中編/エルリ/E)

無言の抱擁を解くことをどちらもしようとしなかった。

使用人の老婆がやってくる足音に気づき、自然に体が離れていった。

リヴァイが視線を合わせることはなかったが、素直に夕食の席に移動をした。


『お口に合いますかしら、』


久しぶりの客人に早いうちから仕込んでいたらしい家庭料理の数々が並ぶ。

リヴァイは「悪くない」と幼さに反した言葉を投げては食べ続けた。

老婆からしてみたら、孫にもあたる年齢だ。

俺が結婚していれば中学生になる子供がいてもおかしくはない。

祖父や父の代から使用人をしていた老婆の目は、何かに置き換えて見つめているようにも思えた。


夕食を済ませると、書斎で個人授業をした。

数学と科学を見てやった。

飲み込みも早く、まったく手はかからなかった。他から付け入る隙を与えないような学び方をしている。

苦手だと感じた部分を俺から学ぼうとしていたように感じる。


「年寄りをこき使うな」と言って、老婆を今日の仕事から解放するように俺に言った。

案の定、老婆は目を細めて「坊ちゃんにお子さんができたようで、」と言って涙ぐんでいた。


ベッドメイクまでしていってくれた老婆を見送り、部屋に戻るとリヴァイは俺の書斎で本を読んでいた。

父が遺した本の数々がそのまま保管されている。

まだ手放す気にもなれなかった。


『リヴァイ、風呂に入ってきなさい。』

『ばあやは帰ったのか。』


『ばあや?』

『お前のばあやだろ、金持ちのボンボンが。』


『ふ、なるほどな。ああ、無事帰ったよ。』

『そうか。』


リヴァイが読んでいたのは世界史の本だった。

あった場所に戻すと、もう風呂の位置を理解していたらしく、持ってきた荷物を一部手にして姿を消した。


父性なのか、違うものなのか。

否、違う。

俺はあの美しい少年に、確かな良からぬものを抱えている。


あと一年、更に一年、卒業するまでには美しさと鋭利さに磨きがかかるのだろう。

背丈も今より少しばかり伸びるかもしれない。

だがやはり、俺を越すほど伸びるとも思えない。

それはただの勘なのか、願望なのかはわからないが。

小柄な美少年になるのだろう。


未成年相手に酒を飲むわけにもいかない。

ここはやはり、約束通りのものを入れるしかない。

あの少年の為に俺は紅茶を入れた。

氷を溶かすようにして入れるアイスティーだ。

砂糖も入れる。

アップルティーの香りに甘さが伴い、風呂上がりの体に染みていくだろう。


デキャンタに入れたアイスティー。

よく冷えた頃に、水を滴らせた美少年が戻ってきた。


『…、』


白いティーシャツ姿で立っていた。

下には下着ぐらい履いているのだろうが、シャツの丈が長くて分からなかった。


『約束のものだ。』


ガラスのグラスにそれを注ぐ。

アップルティーの黄金色の香りが漂う。


『エルヴィン、』


素足で近づいてくる。


『よく掃除されている風呂だった。』


『そうだろう。さあ、座りなさい。』


リヴァイは大人しく椅子に座った。

濡れた髪を拭っている。

額がよく見えてまた違った印象を与えてくる。


『だからつい長風呂をしちまった。』


『そうか、それは何よりだ。』


『喉が乾いた。』


『さあ召し上がれ。』


カラリと氷が動く音がした。

細い指にグラスを持たせる。

グラスを唇に寄せ、そして音を立てて飲み干していった。

一度口につけるとそれは止まらず、グラスはあっという間に空になった。

溶けかけの氷も口に含んで消化したらしい。


『美味い。』


『そうか、そう言われるとやはり嬉しいものだな。』


リヴァイは空のグラスを突き出した。

もっと寄越せと言っている。

デキャンタを傾け、新たに注いでやる。

リヴァイは今度はグラスの中を暫し見つめた。


『エルヴィン、』


『どうした、』


それから彼は俺を見上げた。


『風呂上がりに飲めば、大抵のものは美味いに決まっているだろう。』


『、』


そう言われた瞬間、腹の底から背筋を通って何かが登ってきた。

ゾクリとした。


『二杯目がつまらない味をしていたらお前への点数は減るからな。』


『俺に点数など付けていたのか、』


リヴァイは何も返さずまたグラスを煽った。

ゆっくり口に含み、細い目を伏せがちにして。

それから瞼を落として、睫毛を僅かに震わせた。


ゾクリ。


背筋を通って登ってきたものが、俺の肩に手を掛けてリヴァイを覗き込んでいる。


『…ちっ、美味いな、』


『はは、』


笑った瞬間、俺の背後にいる何かが姿を消した。


『おい、お前もさっさと済ませて来い。』


教師を顎で使ったな。


『わかった、自由にしていてくれ。』


リヴァイは頷き、またグラスに手を伸ばしているところで俺は書斎を出た。

恐らくまた父の本を読みながら待つのだろう。



シャワーを浴びると一日の疲れが軽減されるようだった。

中学校は小学校程ではないと思うが、やはり意思疎通のいかない生徒も少なくはない。

体力的なことよりも、精神的にくる仕事だろう。

だからだろうか、アルコール以外では紅茶を嗜むようになったのは。

ひとりで紅茶の香りを疲れた頭に染み込ませると、心に積もった何かが軽くなる気がしていた。

気休め。

それで十分だ。


それらを君と分かち合えるとは嬉しいよ。

リヴァイ。



風呂から戻ると案の定、リヴァイは椅子の上で膝を抱えるように座り、世界史の本に食いついていた。

デキャンタの中身がだいぶ減っていた。

飲むことも忘れなかったようだ。


『待たせたな、』


この後はもう寝るだけだ。

朝になればまた「ばあや」がやって来て二人分の朝食を用意してくれるだろう。

そしてまた左ハンドルの車で登校するだけだ。

ふたりで。


『寝ようか、』


『ああ、』


立ち上がったリヴァイは最後に紅茶を口にして、眠たそうな目を擦った。


『エルヴィン、』


擦りながら、俺を呼んだ。


『なんだ、』


『するのか?俺はかまわない。』


『なにを?』


擦っていた手を下ろして、幾分力が抜けた目で俺を見つめてくる。


『そういう趣味があるから、お前はあの教師を振ったのか?俺の前で。』


そういう趣味という言葉と、教師を振ったという言葉が直ぐに結びつかなかった。

そしてそれらを理解出来た時、やはり偶然だった事がわかった。

少なくとも、俺の場合だが。


俺はあの日、リヴァイが廊下にいた事に気づいていなかった。

リヴァイは俺と女性教師の話を聞いていた。

そしてリヴァイは俺が気づいているかもしれないと踏んでいた。

その上で断った後にあの女性教師のプライドを傷つけるような一言を俺に残した。


中学生がそんなことを出来るものなのか。


だが、何故。


俺の場合は完全な偶然だ。

そしてそれをきっかけに、リヴァイという生徒に興味を持った。


では、リヴァイは。


『リヴァイ、』


『なんだ、その気になったか?』


眠たそうにしているくせに、その意地を張ったような態度は何なんだ。

色々な部分が伴わない少年だ。


『君は、俺を陥れるためにあの時廊下で声をかけたのか。』


リヴァイの顔から眠気が飛んだ。


『何のために?』


一歩詰め寄る。

リヴァイは動かなかった。


『クソが、』


俺は動じなかった。

リヴァイから視線が逸らされる。

軽く歯を食いしばったように見えた。

それからまた、俺を射抜くように見上げてきた。


『お前がそれを俺に言わせるのか?エルヴィン。』


『なに?』


リヴァイの小さな手が力強く握られる。

感情が手のひらに集まっているらしい。


何の感情なのだろうか。


怒り?


いや、少し違う。


羞恥ーー


それか。


『ではお前は何のために俺をここに呼んだ?』


何のため。

リヴァイという少年に良からぬものを抱いたからだ。

個人的な時間を通して知らない顔を見たかった。


今となっては、腹の底にあるものの正体を知りたいが為でもある。


『エルヴィン、』


『お前を知りたかったからだ、リヴァイ。』


書面上の生い立ちは調べた。

心の中に刻んできた生い立ちに触れたいと思った。

細い体を閉じ込めたいと思った。

綺麗に刈り上げられている項に唇を寄せたいと、今なら思える。


ああ、俺は、この少年に欲情していたのか。


腹の底にあって、背骨から肩まで出てきて、リヴァイを覗いていた正体は、俺の肉欲そのものだったのか。


『リヴァイ、俺たちは後はもう寝るだけだ、それがどういう事かは理解しているか?それとも俺の勘違いでしかなかったかな?』


『ああ、間違いじゃない。ヤりたきゃ、ヤれ。』


一歩踏み出し、俺の前に向かってくる。

二歩、三歩している間に下着は履いていることを知った。


腕を広げた。

リヴァイはその中に入ってきた。

踵を上げた。

全く届かないキスをしてきた。

だから俺は頭を下げた。

彼の腰を抱いて、距離を縮めた。


唇が重なる。

憎たらしく、幼く、そして甘美な唇。


唾液は紅茶の味だった。


リヴァイは、俺に対して良からぬ思いを抱えていた。

女性教師の恋路を蹴るようにして、自分の恋路を切り開く。


なんて十三歳なんだろうな、お前は。


その十三歳に欲情する俺はなんて大人なのだろうな。


リヴァイ。


お前の体の中を引き裂くことを許して欲しい。












後編に続く。

告白は浅い眠りの後で(前編/エルリ/E)

生徒に手を出したのは、教師人生初めてだった。

高校生ならともかく、仕事相手は中学生だ。

手の出し用も、欲求も何もなかったのだが。


至極真面目に教師を務めていたし、聖職者としての顔も上手く作れるようになった。

生徒には厳しいが、上の教師にも下にも教師にも厳しい自分を作り上げていた気がする。

それを教えられたのが、この問題児だった。


リヴァイ。


手足も細く、胸も尻も薄い。

身長はもうあまり伸びないだろう。

どちらかというと華奢な男子生徒だった。


リヴァイが入学してきて直ぐのことだった。

年若い女性教師にあることの教えを請われ、支持も含めた指導を廊下でしたいたのだ。

内容はもう覚えていないほどの簡単なことだった。

けれどその後に女性教師からその夜の予定を聞かされたのだ。

その夜は確か予定はなかった。

雰囲気からしてふたりで会いたいというものだった。

だから断った。

結婚するつもりがあまりない自分にとって、そういう存在を周りにちらつかせることもしたくなかった。


まだ見つけていない世界があるような気がして、自分が生きる方向を決めかねてもいた気がした。

結婚をして、何かに落ち着く自分があまり考えられなかった。


腹の底から何かを渇望するような何かを求めているような気がしていた。


俺が女性教師の誘いを断った瞬間、あいつが出てきたのだった。

俺と女性教師を追い抜くようにすれ違った。

その瞬間。


『…、あんたも酷な人間だな。』


座った目で、中学生になったばかりとは思えぬ言葉遣いをされた。

物凄く強烈な印象を受けた。

その目に。

肌の白さに。

刈り上げられた項に。


リヴァイの背中を立ち尽くして眺めていた中、女性教師は青ざめた顔をして去っていった。

廊下に残ったのは自分ひとりだった。


俺は生徒の前で、女性に恥をかかせたのだった。

リヴァイがいつから俺たちを見ていたのかは分からなかった。

女性教師もそう思うと羞恥といたたまれない思いで逃げ出したのだろう。


だが、追いはしなかった。

どちらかと言えば、リヴァイの狭くて細い背中を追いたかった。



リヴァイは成績も良く、規則も守る優秀な生徒だった。

その反面、何故かとても口が悪く、目付きも悪い。

笑ったところを見た教師もいない。

教師の揚げ足を取るような発言が多い、不思議な問題児だった。


俺はそんなリヴァイに興味を持ち始めていた。

家庭環境を知った。

担任から得られる情報を引き出した。


あの生徒が、何になら興味を持って笑えるのか。


俺はいつしかそんなことをあいつに向けて追うようになっていた。

そして声をかける度に彼が知りたい分野の勉強を見てやった。

学ぶことには素直なのだ。

最初は面食らった程だった。

何度か個人的な時間を校内で作った時に言ったのだ。


『俺の家に来るか?好きなだけ見てやれるだろう。』

『あの女は断って、俺を誘うのか?』


リヴァイはあの女性教師のことを再び持ち出してきたのだった。

相変わらず座った目で見つめながら。


『ああ、そうだ。』

『…、』


その通りだ。

自分の興味はこの目の前にいる生徒なのだ。

この常に力が入っているような顔でも、眠る時ぐらいは緩むのだろう。

笑う瞬間まではまだ望まない。

ただ、もっと長い時間傍に置いて眺めていたい。


『リヴァイ。』

『なんだ。』


人を下から見るような目付き。

これは誰にも等しく同じ態度なのだろう。


『二食と風呂に寝床、朝の登校送り付きでどうだ。』

『安いな。』


何をどこまで汲み取っているのか。

この生徒は。

俺にただらなぬ性欲を持たせるのは、明らかにこの少年の仕業だ。


『あの女が誘ってきたこと以上の待遇は寄越せ。』

『では、うまい紅茶でも入れてやろう。知っているか?フォションのアップルティーをアイスでで入れるのが美味いんだ。』

『ほう、』


驚きで眉間が広がった。

あのしかめっ面の中学生らしからぬ眉間が。


『自宅で誰かに紅茶を入れるのは、親以外にはないかもしれないな。』

『…かも?』


『ふ、親以外には、いない。訂正しよう。』

『許す。』


『風呂上がりに入れてやろう。更に美味いだろう。』

『ああ、悪くないな。』


そう言ったリヴァイは、まだ喉仏も出ない喉を動かしたのだった。

変声期すら迎えていない中学生だ。

男にも女にもなっていない得体の知れない生き物、それがリヴァイだった。



母親からは自由にされているようだった。

泊まりに来るのもあっさり許可を得たようだ。

大人として一応は聞いたのだ。

「保護者はいいと言ったのか?」と。

この感情の問題児が大人しく従って親に話したのかは分からないが、首を縦に振ってリュックひとつを背負って待ち合わせの教師用の駐車場へやってきた。

俺が帰宅できるのは遅い時間だ。

それこそ忍ぶような待ち合わせだった。

この背徳感が期待感にすぐに変わった、ダメな大人なのだ、俺は。


『教師で左ハンドルとかとことん嫌な奴だな、お前は。』


乗って早々窓の外を見ながら呟いた。


『父親の車を大事に使っているだけさ。』

『ほう、』


ませているというか、クソガキというか。


俺の家は一軒家だ。

先祖代々この家に住んでいる。

今は使用人を雇って家の整備と俺の世話を頼んでいる。

大き過ぎる家にひとりで住んでいる。


学ラン姿の少年を連れてきた俺は使用人の老婆に教え子だと伝えると、彼女は嬉しそうに手を叩いた。

西洋の屋敷のような我が家をリヴァイは、それまでの人生で縁がなかったらしい建築物を眺めていた。

こんなに顎の位置が高い彼を見るのも初めてかもしれない。


老婆の彼女が俺の書斎で温かい紅茶を入れてくれる。

甘いものを添えてきた。

それから夕飯の支度にキッチンへと消えた。

前もって一人連れて行くと伝えてあるから、出来上がっているのだろう。

半端に教科書を開くでもなく、黙ったまま紅茶を楽しむことにした。


『アールグレイ、』


リヴァイの声だった。


『ウェッジウッド…、』


『ほう、わかるか。』


目が合った。

リヴァイの目の玉だけが動き、俺を見た。


『万人受けしないものをよく客に出せたものだ。』


『口に合わなかったかな。』


リヴァイはソーサーにカップを置かず、そのまま

また口にした。


『…、』


『君のような刺激的な少年を思って用意させてみたんだがね。』


カチャリと僅かな音を立ててカップを置いた。

唇がほんのり濡れている。


『…アップルティーもそうだ。あれは普通はアイスティーにはしないだろう。』


『リヴァイ、』


俺は楽しかった。

常に問答しているような会話が楽しくて仕方がなかった。


『…お前は、常識も知らず振舞うのか?』


『はは、その常識を求めているようにも俺は思えないな、なあ、リヴァイ。』


『、』


名前を呼ぶことも楽しかった。

瞳が点になり、目が大きく開く。

眉間が緩和される。


『口に合わなかったのなら、入れ直そう。』

『待て、』


ティーポットを手にして立ち上がろうとした時だった。

リヴァイの手が俺の手を掴んだのだった。

白く、華奢な手の甲だった。

けれど指先はささくれていて、皹(あかぎれ)もあった。

水仕事をしている人間の手だ。


『不味いとは言っていない。』

『そうだな、』


では、この少年は何を求めていたのだろうか。

興味は尽きない。

この手は、俺の何を引き留めようとしていたのだろうか。


『エルヴィン。』

『、』


リヴァイが俺の名を初めて呼んだ瞬間だった。

武者震いをした気がした。

興奮のボルテージが上がった。


『俺は、お前のその自由な入れ方は嫌いじゃない。』


好きだと素直に言えない性格なのはわかっていた。

だが、それがどうしたものか、好きだと言われるよりも腹の底を熱くさせる気がしたんだ。


ああ、リヴァイ。


本当に得体の知れない生き物だ。


『リヴァイ、』


『、』


手は掴まれたままだった。


『少しばかり、こちらに抱き寄せてもかまわないか?』


その細い体を。

白い肌を。

胸に閉まってみてもいいだろうか。


『好きにしろ。』


掴まれた手を掴み返し、立ち上がった。

椅子に座っていたリヴァイを立たせ、自分の胸に抱き寄せた。

細い体を閉じ込める。

細い腕が伸びてくる。

背中に回りきらずに途中で止まった。


『 リヴァイ、』


長いこと子供と対峙し続けて来たのに、中学一年生とはこんなに幼いものかと思ったものだった。

それなのに、こんなにも得体の知れない生き物なのか。

俺は今、何を抱きしめて閉じ込めたのか。


腹の底が疼いた。


重たいような、熱いような、形容し難い感情だった。


『リヴァイ…、』


その名前を呼ぶ度に、腹の底がぐらぐらと唸り揺らいだ。


『エルヴィン、』


父親がいない人生だったことは調査済みだ。

こんなふうに拒まず、個別授業も自宅への誘いに乗ったのも、父性を求めていたことかもしれない。


それでもいい。


その欲しがるものが自分に向けられるのであれば、今の俺は何にでもなれるだろう。










続く