Fragment

進撃二次創作腐女子向け駄文ブログ。
取り扱いは
ジャン×アルミン
ライナー×ベルトルト
中心に思うがままに組み合わせていく予定

告白は浅い眠りの後で(前編/エルリ/E)

生徒に手を出したのは、教師人生初めてだった。

高校生ならともかく、仕事相手は中学生だ。

手の出し用も、欲求も何もなかったのだが。


至極真面目に教師を務めていたし、聖職者としての顔も上手く作れるようになった。

生徒には厳しいが、上の教師にも下にも教師にも厳しい自分を作り上げていた気がする。

それを教えられたのが、この問題児だった。


リヴァイ。


手足も細く、胸も尻も薄い。

身長はもうあまり伸びないだろう。

どちらかというと華奢な男子生徒だった。


リヴァイが入学してきて直ぐのことだった。

年若い女性教師にあることの教えを請われ、支持も含めた指導を廊下でしたいたのだ。

内容はもう覚えていないほどの簡単なことだった。

けれどその後に女性教師からその夜の予定を聞かされたのだ。

その夜は確か予定はなかった。

雰囲気からしてふたりで会いたいというものだった。

だから断った。

結婚するつもりがあまりない自分にとって、そういう存在を周りにちらつかせることもしたくなかった。


まだ見つけていない世界があるような気がして、自分が生きる方向を決めかねてもいた気がした。

結婚をして、何かに落ち着く自分があまり考えられなかった。


腹の底から何かを渇望するような何かを求めているような気がしていた。


俺が女性教師の誘いを断った瞬間、あいつが出てきたのだった。

俺と女性教師を追い抜くようにすれ違った。

その瞬間。


『…、あんたも酷な人間だな。』


座った目で、中学生になったばかりとは思えぬ言葉遣いをされた。

物凄く強烈な印象を受けた。

その目に。

肌の白さに。

刈り上げられた項に。


リヴァイの背中を立ち尽くして眺めていた中、女性教師は青ざめた顔をして去っていった。

廊下に残ったのは自分ひとりだった。


俺は生徒の前で、女性に恥をかかせたのだった。

リヴァイがいつから俺たちを見ていたのかは分からなかった。

女性教師もそう思うと羞恥といたたまれない思いで逃げ出したのだろう。


だが、追いはしなかった。

どちらかと言えば、リヴァイの狭くて細い背中を追いたかった。



リヴァイは成績も良く、規則も守る優秀な生徒だった。

その反面、何故かとても口が悪く、目付きも悪い。

笑ったところを見た教師もいない。

教師の揚げ足を取るような発言が多い、不思議な問題児だった。


俺はそんなリヴァイに興味を持ち始めていた。

家庭環境を知った。

担任から得られる情報を引き出した。


あの生徒が、何になら興味を持って笑えるのか。


俺はいつしかそんなことをあいつに向けて追うようになっていた。

そして声をかける度に彼が知りたい分野の勉強を見てやった。

学ぶことには素直なのだ。

最初は面食らった程だった。

何度か個人的な時間を校内で作った時に言ったのだ。


『俺の家に来るか?好きなだけ見てやれるだろう。』

『あの女は断って、俺を誘うのか?』


リヴァイはあの女性教師のことを再び持ち出してきたのだった。

相変わらず座った目で見つめながら。


『ああ、そうだ。』

『…、』


その通りだ。

自分の興味はこの目の前にいる生徒なのだ。

この常に力が入っているような顔でも、眠る時ぐらいは緩むのだろう。

笑う瞬間まではまだ望まない。

ただ、もっと長い時間傍に置いて眺めていたい。


『リヴァイ。』

『なんだ。』


人を下から見るような目付き。

これは誰にも等しく同じ態度なのだろう。


『二食と風呂に寝床、朝の登校送り付きでどうだ。』

『安いな。』


何をどこまで汲み取っているのか。

この生徒は。

俺にただらなぬ性欲を持たせるのは、明らかにこの少年の仕業だ。


『あの女が誘ってきたこと以上の待遇は寄越せ。』

『では、うまい紅茶でも入れてやろう。知っているか?フォションのアップルティーをアイスでで入れるのが美味いんだ。』

『ほう、』


驚きで眉間が広がった。

あのしかめっ面の中学生らしからぬ眉間が。


『自宅で誰かに紅茶を入れるのは、親以外にはないかもしれないな。』

『…かも?』


『ふ、親以外には、いない。訂正しよう。』

『許す。』


『風呂上がりに入れてやろう。更に美味いだろう。』

『ああ、悪くないな。』


そう言ったリヴァイは、まだ喉仏も出ない喉を動かしたのだった。

変声期すら迎えていない中学生だ。

男にも女にもなっていない得体の知れない生き物、それがリヴァイだった。



母親からは自由にされているようだった。

泊まりに来るのもあっさり許可を得たようだ。

大人として一応は聞いたのだ。

「保護者はいいと言ったのか?」と。

この感情の問題児が大人しく従って親に話したのかは分からないが、首を縦に振ってリュックひとつを背負って待ち合わせの教師用の駐車場へやってきた。

俺が帰宅できるのは遅い時間だ。

それこそ忍ぶような待ち合わせだった。

この背徳感が期待感にすぐに変わった、ダメな大人なのだ、俺は。


『教師で左ハンドルとかとことん嫌な奴だな、お前は。』


乗って早々窓の外を見ながら呟いた。


『父親の車を大事に使っているだけさ。』

『ほう、』


ませているというか、クソガキというか。


俺の家は一軒家だ。

先祖代々この家に住んでいる。

今は使用人を雇って家の整備と俺の世話を頼んでいる。

大き過ぎる家にひとりで住んでいる。


学ラン姿の少年を連れてきた俺は使用人の老婆に教え子だと伝えると、彼女は嬉しそうに手を叩いた。

西洋の屋敷のような我が家をリヴァイは、それまでの人生で縁がなかったらしい建築物を眺めていた。

こんなに顎の位置が高い彼を見るのも初めてかもしれない。


老婆の彼女が俺の書斎で温かい紅茶を入れてくれる。

甘いものを添えてきた。

それから夕飯の支度にキッチンへと消えた。

前もって一人連れて行くと伝えてあるから、出来上がっているのだろう。

半端に教科書を開くでもなく、黙ったまま紅茶を楽しむことにした。


『アールグレイ、』


リヴァイの声だった。


『ウェッジウッド…、』


『ほう、わかるか。』


目が合った。

リヴァイの目の玉だけが動き、俺を見た。


『万人受けしないものをよく客に出せたものだ。』


『口に合わなかったかな。』


リヴァイはソーサーにカップを置かず、そのまま

また口にした。


『…、』


『君のような刺激的な少年を思って用意させてみたんだがね。』


カチャリと僅かな音を立ててカップを置いた。

唇がほんのり濡れている。


『…アップルティーもそうだ。あれは普通はアイスティーにはしないだろう。』


『リヴァイ、』


俺は楽しかった。

常に問答しているような会話が楽しくて仕方がなかった。


『…お前は、常識も知らず振舞うのか?』


『はは、その常識を求めているようにも俺は思えないな、なあ、リヴァイ。』


『、』


名前を呼ぶことも楽しかった。

瞳が点になり、目が大きく開く。

眉間が緩和される。


『口に合わなかったのなら、入れ直そう。』

『待て、』


ティーポットを手にして立ち上がろうとした時だった。

リヴァイの手が俺の手を掴んだのだった。

白く、華奢な手の甲だった。

けれど指先はささくれていて、皹(あかぎれ)もあった。

水仕事をしている人間の手だ。


『不味いとは言っていない。』

『そうだな、』


では、この少年は何を求めていたのだろうか。

興味は尽きない。

この手は、俺の何を引き留めようとしていたのだろうか。


『エルヴィン。』

『、』


リヴァイが俺の名を初めて呼んだ瞬間だった。

武者震いをした気がした。

興奮のボルテージが上がった。


『俺は、お前のその自由な入れ方は嫌いじゃない。』


好きだと素直に言えない性格なのはわかっていた。

だが、それがどうしたものか、好きだと言われるよりも腹の底を熱くさせる気がしたんだ。


ああ、リヴァイ。


本当に得体の知れない生き物だ。


『リヴァイ、』


『、』


手は掴まれたままだった。


『少しばかり、こちらに抱き寄せてもかまわないか?』


その細い体を。

白い肌を。

胸に閉まってみてもいいだろうか。


『好きにしろ。』


掴まれた手を掴み返し、立ち上がった。

椅子に座っていたリヴァイを立たせ、自分の胸に抱き寄せた。

細い体を閉じ込める。

細い腕が伸びてくる。

背中に回りきらずに途中で止まった。


『 リヴァイ、』


長いこと子供と対峙し続けて来たのに、中学一年生とはこんなに幼いものかと思ったものだった。

それなのに、こんなにも得体の知れない生き物なのか。

俺は今、何を抱きしめて閉じ込めたのか。


腹の底が疼いた。


重たいような、熱いような、形容し難い感情だった。


『リヴァイ…、』


その名前を呼ぶ度に、腹の底がぐらぐらと唸り揺らいだ。


『エルヴィン、』


父親がいない人生だったことは調査済みだ。

こんなふうに拒まず、個別授業も自宅への誘いに乗ったのも、父性を求めていたことかもしれない。


それでもいい。


その欲しがるものが自分に向けられるのであれば、今の俺は何にでもなれるだろう。










続く