告白は浅い眠りの後で(後編/エルリ/E)
寝室に着くなりリヴァイは着ていた大きめの白いシャツを脱いだ。
育っていない体がまた性別を忘れさせる。
いや、男なのだ。
産まれた時から生えているものがきちんとあるはずだから。
『しかしリヴァイ、』
『なんだ、』
俺の半分以下の薄さをした体。
少しでも力を入れて捻れば折れてしまいそうだ。
『初めてではないのか?』
『さあな。』
その歳で豊富では色々と困る。
聞いてしまった大人として、教師として、母親に伝えなくてはいけない場合もある。
その年齢で子供を作れるともまだ思えない。
いや、確かなことは言えないな。
だが、尻を使えないことはないかもしれない。
どちらかと言うと、そちらの経験の有無の方が気になるものだ。
ダメな大人として、いけない初体験を頂きたいと思っていたのだが。
『初めてだと言っておけ、』
『ああ。』
『来なさい。』
『、』
ベッドに膝をかけ、振り向いてリヴァイに手を差し伸べた。
下の下着一枚になった姿。
その体を引き寄せる。
抱き寄せ、ベッドに倒した。
子供の匂いがした。
けれどそれが今夜はとてもふしだらなものに感じた。
きっと俺の脳がそうさせているだけだ。
なんでもそんなふうに変換してしまうのだろう。
『怖くないか?』
白い首筋に唇を落とした。
風呂上がりの柔らかな肌だった。
食んでやると瑞々しく弾く。
『だったら今なんて最初からなかった。』
『そうか、では…』
十三歳にすら遠慮はしないことになる。
得体の知れない生き物に、得体の知れない欲情を抱えているのだ。
細い首。
薄い胸。
噛み付いて舐めると肩が震えた。
胸の先は硬く尖っている。
肌が泡立っている。
緊張からなのか、触れたところが性感帯だったからか。
舌先を胸の辺でうろうろとさせ、手を彼の下着に滑り込む。
『、』
ひとつ大きく震えた。
『エルび、』
『どうした、』
胸の先を噛む。
『んっ、』
内股に力が入る。
その隙間を割って作る。
小さなそれに手が触れた。
やんわりと立ち上がっているらしい。
『く、んん、』
変声期も迎えていない上に、上擦った高い声だった。
ひとりでしたことぐらいはあるのだろうが、誰かと経験したから俺に挑んで来たのだろうか。
そもそも、まだ、互いの腹に抱えている思いを明らかにしていない。
俺がリヴァイという子供に恋をしているのか、まだ言いきれない気もする。
ーーーーいや、恋はしているのだろう。
それ以上のものが、父性へ向かうのか、別な愛情に向かうのか、今が分岐点なのだろう。
自分自身に頷く。
体も心も傷つける後に解るものかもしれないが。
子供ながらに種を備えたそこを揉んでやると、肩も顎の先も震わせて反応した。
声を噛み殺している。
そんな高騰技術なんて子供のうちは忘れてていいのだがな。
『リヴァイ、』
もう一度唇にキスを贈る。
露骨過ぎる我慢なんて溶かしてしまえばいい。
所詮は子供なのだ。
どんなにませていようと、
どんなに口が悪かろうと、
誰と経験を済ませていようと、
まだ子供なのだ。
『…俺を許すなら、お前も許すんだ。』
その解けない我慢を、俺に解放するんだ。
俺に抱かれることを、許すのなら。
『リヴァイ…、』
唇を溶かす。
股の間にあるものを揉んでやりながら。
名前を呼び、応えさせる。
応えるまで唇を溶かすだけだ。
伊達にあらゆるものに耐えて生きていない。
応えるまで攻め続けるのみ。
『…、える、…、あ、』
酸素が足りていないのだろう。
まだだ。
まだ終わらない。
俺は犬が人の口を舐めるようにひたすらキスとは言えなくなった行為を続けた。
『ふ、…ら、…えるび、』
唾液がシーツに落ちる。
開きっぱなしになった唇。
リヴァイの細い腕は力なくベッドに投げ出されていた。
ようやく唇を離す。
涙と涎で濡れた顔をしたリヴァイは、酸素を求めてただ胸を上下させていた。
『リヴァイ、やめておくか?』
頬に触れる。
瞳だけが動き俺を見た。
きっと視界は霞んでいるに違いない。
『い…やら、…』
嫌だ。
そう言いたかったのだろうか。
俺の空耳でしかなかったか。
『ここまできて、…ふざけ…な、』
ふざけてなどなかった。
陥落させるためにキスを続けたのだ、俺は。
『えるびん、』
回らない呂律。
らしからぬ姿に、俺の腹の底の何かがまた首をもたげた。
背筋から登って、また肩からリヴァイを覗き込んでいる。
『えるびん…、』
もう一人の、俺だ。
俺の肩からリヴァイを覗くのは、もう一人の俺。
肉欲の目でこの少年を見下ろしているのだ。
『おれ、』
伸びてくる手を取った。
ベッドの上でリヴァイの体を抱きしめていた。
『…えるびん、える、』
泣いているのか。
『、…きだ、』
『、』
『えるびん、』
『…、』
『ぐ、…、』
『、』
『すきだ、』
聞いていたか、もう一人の俺よ。
肉欲の塊よ。
これで合意の行為のようだ。
貰った言葉以上の扱いをするんだ。
この少年の不器用過ぎる感情が形になったのだ。
それをもう一人の俺、否、この俺が、この少年の気持ち以上のもので返してやらねばならない。
『リヴァイ、』
『、』
それがこの少年に恋をした大人の役目だ。
『ありがとう。』
『、』
この少年にはどんな言葉や、どんな愛撫で気持ちが伝わるのかはまだ掴めない。
けれど、やっとこの少年は俺に気持ちを現した。
伝わることは確かめられた。
だから今度は、俺が探り続ける番だろう。
俺のその先にある感情と、
この少年の心に触れられる場所を。
『リヴァイ、無理に耐えようとするな。』
唇を拭ってやる。
それから目元にキスをして、僅かばかり気休めを与えてやった。
リヴァイはその気休めを頷いて受け取った。
結果、指も満足に入らない。
俺を受け入れる体にはなっていなかった。
最後までするのだと、泣いて譲らないリヴァイを宥めるのは苦労した。
その分口でしてやって、少量の種を吐き出す行為を何度か繰り返してやった。
慣れてなんかいなかった。
結局リヴァイの口から経験の有無は聞けなかったが、何も知らない体をしていたように思える。
もう一人の俺は、久しぶりの獲物に目を覚ました。
そして元来の俺が征した夜となった。
そう思うと、リヴァイの中にももう一人のリヴァイがいたのかもしれない。
気持ちを伝える手段を、もう一人の自分に委ねてしまった少年。
紅茶を愛する少年の中にある、乱暴な思いを両手一杯に抱えてしまったもう一人の自分。
目尻を赤くしたまま眠るこの少年が起きた時の顔はどんなものだろうか。
それを考えると、なかなか寝付けなかった。
起きたらアールグレイのミルクティーを入れてやろう。
きっとお前は何故アールグレイなのかと問うだろう。
『ふ、』
眉間に何も無い顔を見ているのはとても気持ちがいい。
見慣れないせいだ。
見慣れればいつか、この少年の体を抱いて深く眠れる夜も来るだろう。
だからその時は、父性ではなかった俺の告白を聞いてもらおう。
『リヴァイ、』
今はまだ、お前を前にして浅い眠りしか得られぬ未熟な俺を許して欲しい。
『ありがとう。』
俺が贈ってやれる言葉は、今はまだ、こんなもののようだ。
許して欲しい。
きっと愛してしまう日まで、許して欲しい。
終わり。