Fragment

進撃二次創作腐女子向け駄文ブログ。
取り扱いは
ジャン×アルミン
ライナー×ベルトルト
中心に思うがままに組み合わせていく予定

腕と羽根(J)

非力な凡人。


そう言われると腹は立つが自分で自分をそう思うとしたらとても納得できる。

周りの奴らを見ていれば、いかに自分が甘くて凡人思考しかなかったが解る。


解る。


解っている。


何かを超越した力を持った奴が周りにい過ぎる。

そしてぶっ壊れた世界ではもう普通ってものが何なのか誰もわからなくなっている。


俺も含めて。


生き残っているだけでーー


そう慰めてくれる存在もいる。

納得もできる。


それでも、それだけではダメなんだと強く思う自分もいる。

生き残ること以上に、もっと遠くのもののために死に急ぐ奴らばかりで。

普通じゃない世界で、普通じゃない奴らと、普通じゃない敵と戦う。

普通じゃないことが、普通になっている。

だからこそ、やっぱり自分はその中でも一番の非力で凡人なんじゃないかなんて、思わされる時があるんだよ。


アルミン。


小さいくせにキレる頭を持ってしまったばっかりに、その顔に似合わない選択ばかりをしている。


細い腕。

狭い肩。

小さい体。

それらから溢れるような、強い心。


アルミン。


強い心が作り出す、大きな羽根。

翼。


それは多分、あいつらと遠い向こう側に行く為のものだ。


俺じゃない。

最初からあいつらと生きる為のものだった。

俺ではなく。


解っている。


解っている。


解っていた。


でも、その後に解ったんだ。


俺はお前のその翼を、地面の上から求める腕だった。

掴めるのか、掴めないのか、それは俺次第でもあるし、アルミン次第でもある。

ただ見送り、手を振るための腕だったのか、その翼が止まる為の腕だったのか、決めるのは俺だ。


それを許すのは、アルミンだ。




今夜はエレンもミカサの姿も無かった。

食堂にいた顔なじみは芋女にコニー辺り。

そしてアルミンだった。


『ジャン、』


小さな手のひらが俺を呼んだ。

立ち上がっても小さいものは小さいようだ。


『今日はあいつらいねえのか?』


あいつというのは、勿論エレンとミカサだ。


『うん、だから一人で食べてるのもなんだか味気なくて。』


芋女とコニーは数に入らないのかなんなのか。

ふたりは別な席でくだらない話をしているようだった。


アルミンの夕食の側には何かの本だった。

味気ないとか言いながら、ひとりを選んでいたのではないか。

なんだっていい。

俺だって邪魔が入らないなら何よりだ。


相変わらずのスープとパンの夕食だ。

これを見ると、味気なさも三割増しだろう。


『アルミン、』

『なに?』


席について向かい合うように座った。

アルミンはパンをちぎって口に運んでいた。


やはり、小さな手だ。

少女のような、子供のような。

小さいな手だ。


『ジャン?』

『あ?ああ、飯食ったら、ちょっと付き合えよ、』


手は小さいくせに、驚いた時の目の大きなことといったらないな。

そんなところも、見ていて飽きない。


『うん、いいけど、どこかいくの?』

『別に、宿舎の裏とか、テキトーでいい。』


できるだけ邪魔が入らないところがいいが、行くには面倒なところでなくてもいい。

別に何をするでも、何を話すでもないのだから。

ただ、何となく、この小さい体を自分の腕で少しの間だけでも繋いで留めておきたかった。


『わかった、今夜は涼しいから丁度いいね、』

『ああ、』


それから他愛のない話をして夕食を済ませた。腹は満たされない。

それでもどうでもいい話をしながら笑っていられるだけで、いつもの飯より遥かに美味く感じられるものだった。



食堂を出ると本を手にしたアルミンと宿舎の裏に寄り道をした。

余計な明かりもなく、全くないわけでもなく、丁度よかった。


適当に座ると、風が駆けていった。

アルミンの金色の髪が流れる。


『何読んでたんだ?』


聞いたって理解出来ないものだろうが。


『うん、水の中に生きる生き物の本だよ。』

『川か?』


アルミンは首を横に振った。

じゃあなんだと言うのだ。


『…、海の、なかの、生き物。』


ああ、海ってものの話は、この三人でいる時に何度か耳にしたっけ。


『ふうん、』

『、架空のものだって言いたいんでしょ?』


拗ねるなよ。

拗ねられると反射的にムキになるのが俺なんだ。


『別に。むしろこの世界が架空のものなんじゃねえのって思うけどな、俺は、』

『、そうだね。』


ここで少しだけ沈黙した。

互いに傷つけたとは思わない。

ただ、黙った。

何だかんだなんの傷も癒えない日の連鎖なのだ。

互いの何が傷つく部分なのかももうわからない。

優しさだって人を殺す動機になる時世だ。


『ねえジャン、』

『あん?』


金色の髪が月明かりに照らされ、銀色に変わった。

綺麗だ。


『僕は入団するまで、こんなにたくさんの人と行動をしたことがなかった、』

『…、』


『だからなのかわからないけど、自分のしていることと、自分がしたいことと、自分のすべきことが、噛み合う日が来るのかなって時々思ってしまうんだ。』

『…、』


『絶対全てが満場一致することなんてないって、解っている。世界はそんなに優しくなかったから。』

『…、』


それらが何故集団行動と関係があるのか。


『それでも、思い描くものに、すべてのものがあればいいなって、思うよ。』


すべてのもの。


すべての者。


なるほどね。


上司、新兵以下の部下、同期、その他。


その他。


その他ーーー


ここで考えるのはやめておく。

多分俺もアルミンも精神的によろしくない。

そんな気分になりたい為に呼び出したわけじゃない。

俺はこの小さい背中にある翼を眺めたいと思っただけだ。


『…、いいんじゃねえの、だって、人間だし、俺ら。』

『…、』


ただの人間じゃなくなったとしても、人間は人間だ。

アルミンは人の心で生きているのだから。

それはあいつだって、ミカサだって、コニーや芋女だってそうなんだ。


『うん…、ありがと、』


銀色の髪の隙間から、光るものが見えた。泣いているーーー?


『アルミン?』


アルミンは膝を抱えて頭を下げた。

小さく背中を丸めて髪を垂らした。

もう何に恐れて、何に喜べばいいのかわからない毎日だ。

それでも、今ここにアルミンがいて、俺がいる。

とりあえずそれはとても喜ばしいことだと思うんだ。

単純に。

そしてこんなにも明確だ。


声を殺して泣いている。

肩が、髪が震えた。

膝を抱える手に、指に、力が入っている。

爪が白くなるほどに。

震える丸い背中。


でも、俺には飛んでいける羽も翼も見えるんだ。

俺なんかよりも、強く、早く、遠くまで飛べる翼だ。

それは、あいつらと飛ぶための翼。


俺ではないことだって、解っている。


解っている。


解ってんだよ。


純粋な気持ちで夢を追うことも、未来への光を諦めることも、どちらも馬鹿のすることだ。


けれど、諦めないのも馬鹿で、夢を見ないのも馬鹿だろう。

もう、誰かを馬鹿に出来るほど余裕のある世界でもない。

誰がどれくらい本気で馬鹿になれるかなんだ。

諦めても、諦めなくても、生きてはいけるし、死ねる時に死ねるだろう。


誰がどれくらい意味を持って馬鹿になれるかが、今は割と大事なのかもしれない。


多分。

多分な。


だから、ーーー


『アルミン、』


その背中を抱いてみた。

腕の中に転がすように傾けて。

腕で翼を抱いてみた。


『ジャン、』


『悪い、ちっと、このままこうさせろ。』


小さい体を閉じ込める。

疲れた翼を自分の腕に閉じ込める。

このまま俺の腕の中で死ぬまで静かに笑っていられたらいいのに。


なんてことを考えていると、逃げて避けていた過去の自分を思い出す。


違うんだ、そうじゃねえだろうって。


ただアルミンが、今は心も翼も静かに癒えてくれればいい。

そしてその後で、俺達はまた終わるその日まで強くいようとするのだろう。

それならそれで、俺はこいつの翼をしっかりと守ってやるだけだ。


そして俺の腕にも、戻ってきてくれる翼でいて欲しいんだ。



『アルミン、』


返事はなかった。

まだ泣き止むことが出来ないらしい。

無理もない。

自分のなかに得体の知れないものと、それらの記憶が存在するのだから。

こんな小さな体の中に。


『…、お前のキレる頭の中ってのは、わかんねえよ、』

『、』


僅かに身動いだ。


『でも、この中で…、少なくとも上のヤツらとか同期の中で一番甘ったれた気持ちが解るのは俺だ。』


少しだけ顔が上がった。

煌めく瞳が覗いた。


『お前がどんなものになっちまっても、俺はお前が人の心を忘れないことも、』


目が合った。


『お前が弱音吐いて泣いたとしても、それが「アルミン」であることだって俺が一番知ってるつもりでいてやるから、』


相変わらず偉そうだな、俺は。


『お前はお前として堂々と「飛んで」いいんだぜ。』


まあでも、嘘じゃない。


『ジャン…、』


言ったから恥ずかしくなる。

でもまだ、言いたいことはあるんだ。


『お前が見たいものを、俺だって見てみたいって思ってんだ。』


親友達の中に入れるとも思っていない。

それでもアルミン個人が見たいものを、俺個人が見たいんだ。


『連れてけよ、守ってやるから。』


『…、ジャン、』


守ってやれる自信だって保証だってない。

いつ何に、どんなふうに終わりにさせられてもおかしくはない。

それでも、心からそのままのことを思っているのだから仕方がない。


守れるのなら、守ってやりたい。


すべてが終わるその時まで。


いや、その先まで。




『ありがとう、』



泣きながら笑うのって、反則だと思う。



悔しいから、また力一杯腕に閉じ込めてやったんだ。



『好きだ。』



抵抗できないくらいに。



『…、』



窒息しただろうか。



『ありがとう、ジャン、大好きだよ、』




窒息しそうなのは、俺の方だった。




俺の腕は、今この翼だけの為にある。


その時のその先も、そうであるために俺は生きる。


こいつをどこまでも飛ばしてやる為に。














終わり